マクロビオティックコラム

厳しさが連れてくる美しさ、苦しみが連れてくる喜び

シェアする

北海道の冬は、寒いを通り越して痛い。零下を10℃も下回る日には、吐く息の水蒸気が睫毛に凍り付いて、白いマスカラをつけたようになる。

手袋をはめていても指先はかじかみ、頬は赤くなり、鼻の中まで凍ってしまう。息を吸えば、あまりの冷気に咳き込んでしまうほどだ。

人が安穏と暮らすには過酷すぎる、北海道の冬。だが私はこの季節が好きだ。寒いのは得意でないけれど、それでも、この厳しい冬が好きだ。

冬はすべてが静まりかえる。道路はツルツルに凍るから、夏は爆音を立てて暴走していたバイク乗りのあんちゃんたちもどこかに消えてしまう。

コンビニエンスストアの前にたむろしていた若者たちもいなくなる。寒すぎるから、外にぼーっとして立っていられないのだろう。

冬は人間の前に立ちはだかる。厳しく冷たい手で、人間をなぎ払う。その圧倒的な強さを感じるとき、私は安心するのだ。人間など、この自然の中に生かされているか弱い存在に過ぎない。自然の方が大きいんだ。

うじうじした悩みや不安など、氷をはらんだ風にかき消されてしまうような気がする。凍てついた夜空に光る月を見上げ、白い息が天に昇っていくのを見届けるとき、確かに生きている「自分」の存在を感じ、この世界がいとおしくなる。

暖かい季節だけだと、その心地よさに慣れきって、生きていることが当然になってしまう。命の危険さえ感じる厳しい季節の中に立って初めて、けなげに脈打つ心臓の熱さを感じるのだ。

どこまでも深い陰があるからこそ、陽が輝きを放つ。マクロビオティックを学んでから、より冬の持つ「陰」に尊さを感じるようになった。

ともすれば、陽ばかり求めてしまう自分だから。苦しみを避け、楽しみだけ享受したいと逃げ腰になって、傷つくことを恐れてしまうから。

逃げようのない冬風の中で自分の弱さを叩き、目を見開いて、「自分は決して、苦境に背を向けたりしない」と大地に誓う。

そして冬の限りない厳しさの中には、息をのむほどの美しさが潜んでいる。

舞い落ちてくる雪を手袋の上に受け止めたときに、私は驚く。雪は、ただの白く冷たい固まりではない。美しい細工を施された、ひとひらの、薄い氷の花なのだ。

雪の結晶

その形は一つ一つ違う。そしてそのすべてが美しい。大地に落ち、他の結晶たちと一緒になり、雪原になってしまっても、太陽の光を受ければキラキラと、宝石のように輝くのだ。

空から、こんな儚い芸術品が贈り届けられる冬という季節に、私は自然界の法則を感じる。陰ばかりなんてあり得ない。陰が強ければ強いほど、そこには、信じられないくらいの美しさが隠れている。

厳しさは美しさを連れてくる。それが宇宙の掟であれば、苦しみは、必ず喜びを連れてくるだろう。

陰あれば陽。

北海道の冬に触れるたびに、私は励まされる。

人生の苦しみは、受け止めようではないか。逆境の中にある輝きを見つけ、それを大事にしながら、春を待とうではないか。

陰は陰だけで終わったりしない。陽を必ずはらみ、やがて陽に変わりゆく。そのことを一番教えてくれるのが、北海道の冬なのだ。


運営者紹介

マクロビオティック羅針盤」運営者の遠藤です。

当サイトでは、マクロビオティックを初歩からQ&A形式で解説しています

マクロビオティック的に最もお勧めしたい献立「おにぎり・ごぼう汁定食」について「栄養学からも検証済み! 失敗しないマクロビオティック献立は?」で解説しています。

他に、メインブログとして「健康探究ブログ」を運営していますのでよろしければ遊びにいらしてください。

北海道旭川市在住。お茶の水女子大学卒業。

サイト説明詳細・運営者プロフィールはこちら

関連記事

悪口を言わない・その2

悪口を言いたくないのなら、そもそも、相手を分析してはいけない。私は、目に映じたものすべてに対し、「何も思わない、何も感じない」ようにする訓練を始めた。

好きなものについて語る~嫌いなものについて語るのは悪口になり、誰かを傷つけ、最後には自分も傷つくことになる

私は何かについて語るとき、対象を好きなものに限定するようにしている。気に入らなかったものについては語らない。それは悪口と同じで、誰かを傷つけ、自分も傷つく結果となるからだ。

人間の深みが増すとき~苦しみで、人間としての味わいが増す

「寒さ、貧しさ、ひもじさ」が、なぜ人間を鍛えるのか? その答えは食品の氷結技術に隠されていました。苦しみを得ることで、人間は、心に不凍物質を作ります。

苦痛は菩薩(ぼさつ)?

ネットニュースの記事を読んでいて、苦痛を菩薩と読み間違えました。そこから考えました。もしかして、苦痛と菩薩は似ているのでは?

大凶は大吉、大吉は大吉

大吉を狙って引いた初詣のおみくじが末吉、リベンジにどんど焼きで引いたおみくじが小吉……。私をなぐさめるために母がかけた言葉は?

ショックからの立ち直り方「アベコベの法則+α」~すべてのものは移りゆく。「良い方向に向かって」。

ショックなことがあったとき、どうやって立ち直るか? マクロビオティック無双原理の「アベコベの法則」と、私独自のプラスアルファで、私は自分自身を鼓舞しています。

否定的な言葉はやわらかな言い回しに変える

断定的な否定形の言葉というのがある。「悪い」や「嫌い」などだ。私はそれらの言葉を日常で使わないよう強く意識している。

完璧主義に疲れ、能天気を心がけたら楽しくなった~思い詰めず、その日生きられたならそれでOKというおおらかさ。

思い詰めて、頑張らなきゃと気を張り詰めて生きてきたのですが、うまくいかないことに絶望するのに疲れ果て、とりあえず生きていけるだけで十分だという思いに至りました。

怒りを手放す方法「寛容」について~許してやれと自分に語りかける。愛さないけど憎まない。

ある人から言われたささいなことを五年も根に持ってどうしても怒りを捨てきれずに苦しんでいたのですが、「寛容」を意識することで急に楽になりました。許してやれ、と、自分に語りかけるのがコツ。

自分を自分で怒らない、責めないことの大切さ~自分を許すと楽になる

過去の失敗行為を思い出して「ああすれば良かったなあ」と後悔するとき、自分を慰め励ますのも良い手なのですが、許してやれ、と自分に語りかけると、もっと根本から楽になれました。

ランダム記事

しなびた大根の救済策~丸ごと煮物にすれば間違いない(レシピ)

しなびた大根が床に転がっていて、何とかしようと煮物を作ることにしました。

マクロビオティックの食は、制限ではなく解放~果物、水を摂りすぎないで良いというのが嬉しい

マクロビオティックで言われる「なるべく食べない方が良い」とされるものについて、私は「制限」というより「解放」を感じることが多い。たとえば果物も水も、私があまり得意でなかったものだ。これをマクロビオティックは「多く摂らない方が良い」と言ってくれた。私には救いとなった。

マクロビオティックをやめて、食生活が整う不思議

マクロビオティックを始めたばかりの頃は、マクロビオティックのおかげで食生活がととのった。それが逆転する日が来るなんて、どうして想像できたろう?

外見は綺麗に、中身は僧侶~デパートで物欲を揺さぶられない

マクロビオティックを始めてから、食への執着が落ちるとともに、物欲までなくなってきました。

マクロビオティック優秀献立おにぎり・ごぼう汁定食誕生秘話

マクロビオティック的にも素晴らしい上に、栄養所要量をも満たす優秀献立「おにぎり・ごぼう汁定食」誕生の裏話です。おにぎり・ごぼう汁定食は、高校時代、スキー授業の昼食で食べた「熱々の豚汁とおにぎり」の記憶から生まれました。

マクロビオティックコラムカテゴリー別記事一覧
マクロビオティックを考える
マクロビオティックフリートーク
マクロビオティック失敗談・初めての体験記
マクロビオティック実践記
アトピー性皮膚炎との歩みシリーズ
7号食実践記シリーズ
マクロビオティックからの卒業
マクロビオティック卒業後コラム
心の健康
運営者ブログ新着記事