マクロビオティックと堕落論
2009.9.23 | マクロビオティックからの卒業
マクロビオティックに、万人に共通する正答などない。
自分の体と心に合ったマクロビオティックというものを見つけるためには、誰にも頼らず、独りで学び、独りで実践し、その中から自分だけの方法論をつかんでいかねばならない。
実験の連続なのだから当然失敗もある。失敗やむなし。失敗することによってしか学べないこともある。
私はずっと強気だった。失敗しても笑っていられた。失敗こそ良師だと胸を張って言えた。だがそれは、私が経験したマクロビオティックにおける「失敗」の程度が軽かったおかげだったのだ。
マクロビオティック実践三年目間もなくして、マクロビオティックのワクから大きくはみ出し、自分だけの道を極めようとした私は体調を崩した。
最初は夏バテのような全身の倦怠感。それが治ったと思った頃にインフルエンザにかかったかのような高熱、下痢、頭痛。ようやく一段落ついたと思った時に油断して出歩いたのが運の尽き、ついには喘息の症状まで現れた。
これは完全に治さなければいけないと一念発起し、食事をととのえ安静にして、現在はかなり良くなったのだが、それでも微熱は続いている。
私は自分の威勢の良さを思い出して苦笑した。失敗何するものぞと息巻いていて、本当に失敗したな。
だが今回は、食べ過ぎて胃もたれがするとか、そんな可愛い話では済まなかった。人生で一番ひどい風邪だ。
長引きすぎている。もう二ヶ月だ。私は失敗するようなマネをしたことを悔やんだ。どうしてあんな、進んで病気になるような食べ方をしてしまったのだろう。今思えば身震いする。
……いや、後悔などしても仕方ない、これは必要なことだったのだと頭ではわかっていても、心は晴れなかった。
そんなとき、本棚の中で、一冊が目をひいた。坂口安吾の『堕落論』。タイトルがいかにも今の自分にぴったりだ。
大学時代に買って、読み切らないまま終わっていた本だった。私は再びページを繰ってみた。
健康に関する実用書ばかり読んでいたから、気分転換にでもなればいいなという軽い気持ちだった。だがそこに、私は私へのメッセージとも思える文章を見つけた。
『自分自身の武士道(略)をあみだすためには、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。(略)堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。』(p.86)
「自分自身の武士道」を、私は「自分自身のマクロビオティック」と読み替えて解釈した。
そうか、自分だけの道をあみだすには、堕ちなければいけなかったのだ。それも、軽く堕ちるのではなく、「堕ちきる」ことが必要なのだ。
白砂糖を食べて鼻水が止まらない、食べ過ぎてお腹が痛い、そんな失敗で終わっていれば楽だったけれど、それでは自分自身のマクロビオティックを真に見つけることはきっとできなかったのだ。
『生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。』(p.84)
私は堕ちた。だからこそ救われるのだ。
高熱にうなされながら天に対して呪いの言葉を吐き、涙を流した、暗さ。
いつ微熱が引くのか、完治を信じながらも不安を拭えず、濃い霧の中を出口求めてさまようような、暗さ。
あの気高さはどこへ行った。「堕落」。
だが、堕落したからこそ、私はついぞ見たこともなかった高みへ上るきっかけをつかむだろう。
深い、深い闇が朝日を呼ぶように。
死が生へとつながっていくように。
私は身を焼かれ、そこから再び生まれるだろう。
そのときはもっと強くなる。
……この失敗が今で良かった。もし私が現在年老いていて、体力がなければ、風邪をこじらせたまま死んでしまったかもしれない。
今堕ちて良かったのだ。やり直せる。
せっかく堕ちたこの深く暗い秘密の場所。皆が恐れて近づかないこの秘境に転がっている黒い宝石を両手にいっぱい持って、上に帰ろう。
そしたら、光にかざして研究をするんだ。
「私だけのマクロビオティック。私だけの健康への道。私だけの人生」。私は間違いなく、正しい道を歩めているようである。
堕落論 (新潮文庫)

【関連コラム】
自分の体と心に合ったマクロビオティックというものを見つけるためには、誰にも頼らず、独りで学び、独りで実践し、その中から自分だけの方法論をつかんでいかねばならない。
実験の連続なのだから当然失敗もある。失敗やむなし。失敗することによってしか学べないこともある。
私はずっと強気だった。失敗しても笑っていられた。失敗こそ良師だと胸を張って言えた。だがそれは、私が経験したマクロビオティックにおける「失敗」の程度が軽かったおかげだったのだ。
マクロビオティック実践三年目間もなくして、マクロビオティックのワクから大きくはみ出し、自分だけの道を極めようとした私は体調を崩した。
最初は夏バテのような全身の倦怠感。それが治ったと思った頃にインフルエンザにかかったかのような高熱、下痢、頭痛。ようやく一段落ついたと思った時に油断して出歩いたのが運の尽き、ついには喘息の症状まで現れた。
これは完全に治さなければいけないと一念発起し、食事をととのえ安静にして、現在はかなり良くなったのだが、それでも微熱は続いている。
私は自分の威勢の良さを思い出して苦笑した。失敗何するものぞと息巻いていて、本当に失敗したな。
だが今回は、食べ過ぎて胃もたれがするとか、そんな可愛い話では済まなかった。人生で一番ひどい風邪だ。
長引きすぎている。もう二ヶ月だ。私は失敗するようなマネをしたことを悔やんだ。どうしてあんな、進んで病気になるような食べ方をしてしまったのだろう。今思えば身震いする。
……いや、後悔などしても仕方ない、これは必要なことだったのだと頭ではわかっていても、心は晴れなかった。
そんなとき、本棚の中で、一冊が目をひいた。坂口安吾の『堕落論』。タイトルがいかにも今の自分にぴったりだ。
大学時代に買って、読み切らないまま終わっていた本だった。私は再びページを繰ってみた。
健康に関する実用書ばかり読んでいたから、気分転換にでもなればいいなという軽い気持ちだった。だがそこに、私は私へのメッセージとも思える文章を見つけた。
『自分自身の武士道(略)をあみだすためには、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。(略)堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。』(p.86)
「自分自身の武士道」を、私は「自分自身のマクロビオティック」と読み替えて解釈した。
そうか、自分だけの道をあみだすには、堕ちなければいけなかったのだ。それも、軽く堕ちるのではなく、「堕ちきる」ことが必要なのだ。
白砂糖を食べて鼻水が止まらない、食べ過ぎてお腹が痛い、そんな失敗で終わっていれば楽だったけれど、それでは自分自身のマクロビオティックを真に見つけることはきっとできなかったのだ。
『生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る便利な近道が有りうるだろうか。』(p.84)
私は堕ちた。だからこそ救われるのだ。
高熱にうなされながら天に対して呪いの言葉を吐き、涙を流した、暗さ。
いつ微熱が引くのか、完治を信じながらも不安を拭えず、濃い霧の中を出口求めてさまようような、暗さ。
あの気高さはどこへ行った。「堕落」。
だが、堕落したからこそ、私はついぞ見たこともなかった高みへ上るきっかけをつかむだろう。
深い、深い闇が朝日を呼ぶように。
死が生へとつながっていくように。
私は身を焼かれ、そこから再び生まれるだろう。
そのときはもっと強くなる。
……この失敗が今で良かった。もし私が現在年老いていて、体力がなければ、風邪をこじらせたまま死んでしまったかもしれない。
今堕ちて良かったのだ。やり直せる。
せっかく堕ちたこの深く暗い秘密の場所。皆が恐れて近づかないこの秘境に転がっている黒い宝石を両手にいっぱい持って、上に帰ろう。
そしたら、光にかざして研究をするんだ。
「私だけのマクロビオティック。私だけの健康への道。私だけの人生」。私は間違いなく、正しい道を歩めているようである。
堕落論 (新潮文庫)

マクロビオティックに飽きるとき
生きていれば風邪くらいひくさ〜マクロビオティックをやっていても
病気を受け入れる
人生は自分で決める。マクロビオティックも。
マクロビオティックという学舎を卒業するとき
マクロビオティックをやめるということの意味
マクロビオティック完璧主義者
マクロビオティックを離れて初めてわかるありがたさ
マクロビオティック界に感じていた排他性(卒業後コラム)

- 1.マクロビオティックは苦しいか?
- 2.好きにも嫌いにもなりたくない〜マクロビオティックとの距離
- 3.西洋医学とマクロビオティックの両立〜親知らず抜歯後の体験
- 4.電子レンジ、電磁調理器がダメと言われても
- 5.マクロビオティックは誰のもの?
- 6.人生が先、マクロビオティックは後。
- 8.制限ではなく解放
- 9.マクロビオティック独学のススメ
- 10.マクロビオティックを信じてみる気になった理由
- 11.静の般若心経と動の無双原理
- 12.ハメを外すための節制〜要はメリハリ
- 13.マクロビオティックをオープンにしたい
- 14.食べ過ぎると風邪をひく
- 15.前は食べられたものが食べられない〜読者様より
- 16.朝、食欲がない〜読者様より
- 17.マクロビオティックへの批判
- 18.邪食? 普通の食?
- 19.マクロビオティックのトラウマ〜母の囚われ
- 20.健康な人のマクロビオティック
- 21.越えなければいけない壁〜マクロビオティック実践の難関
- 22.食事は仕事〜体を養うための食
- 23.病気の人のマクロビオティック
- 24.一食分の玄米の量(グラム数)
- 25.マクロビオティッ苦
- 26.マクロビオティックが治すのではない
- 27.7号食はマクロビオティックの象徴
- 28.豊かな食事の「危険」とは何か
- 29.マクロビオティックグルメ食べ歩きはマクロビオティックか
- 30.マクロビオティックだけで精神修養できるのか
- 31.楽をしたいなら苦労も背負う
- 32.マクロビオティックが「偉そう」?
- 33.マクロビオティックを理解した道筋の再現
- 34.失敗を繰り返して強くなる
- 35.空腹が薬
- 36.マクロビオティックはおすすめできない?
- 37.厳しいorゆるゆる? 各人に合ったマクロビオティック
- 38.マクロビオティック成功の秘訣-信じること
- 39.独学という勉強方法を信頼する理由
- 40.「食べられなくなった」のではない
- 41.マクロビオティック的進歩の目安…人の食事が気にならない
- 42.強くない体に守られている

- 1.初めての「梅酢で寿司飯」体験記
- 2.マクロビオティック優秀献立「おにぎり・ごぼう汁定食」誕生秘話
- 3.初めての「鉄火味噌(てっかみそ)」体験記
- 4.中庸で変わる体と心〜サインは月経周期28日
- 5.マクロビオティックは超高級
- 6.私の目指す健康=松岡修造
- 7.無月経を吹き飛ばす恋のパワー
- 8.初めての「ねぎ味噌」体験記
- 9.初めての「マイースのハンバーグ」体験記
- 10.皮つきりんごが美味い!
- 11.全粒粉で小麦粉料理の地位向上!
- 12.カップ麺もスナック菓子も、見ざる、言わざる、聞かざる。
- 13.自分をマクロビオティック実践者だなあと感じるとき
- 14.クローン牛・豚が解禁? マクロビオティック実践者の心構え
- 15.厳しさが連れてくる美しさ、苦しみが連れてくる喜び
- 16.人間の深みが増すとき
- 17.続・皮つきりんごが美味い!〜竹嶋さんの無農薬ジョナゴールド
- 18.苦痛は菩薩
- 19.大凶は大吉、大吉は大吉
- 20.掌編小説:マクロビオティックとの対話〜桜下の老人
- 21.肉は、もうわかった。〜憑き物が落ちた瞬間〜
- 22.マクロビオティックで長生き遺伝子発動
- 23.ショックからの立ち直り方〜アベコベの法則+α
- 24.素材を選べば害は減る〜肉でも乳製品でも
- 25.大根葉の水耕栽培でお得気分
- 26.初めての「豆腐チーズ」体験記
- 27.倒れた妹をオーサワジャパンが救う
- 28.初めての「手作り納豆巻き」体験記
- 29.揚げ物の食べ過ぎで頭痛、吐き気
- 30.外食前の玄米おにぎり
- 31.回転寿司にティーバッグ持参
- 32.初めての「完全粉からセイタン作り」体験記
- 33.初めての「グルテン粉からセイタン作り」体験記
- 34.歯医者のストレスとコーヒー
- 35.マクロビオティックは偏食?
- 36.「チャヤマクロビオティックレストラン」探訪記
- 37.「パティスリーシンプルモダンマクロビオティック」探訪記
- 38.大宮氷川神社でマクロビオティックピクニック
- 39.外見は綺麗に、中身は僧侶
- 40.マクロビオティックをやっていないのに苦しんでいる人
- 41.煮詰まってイライラしたらりんごを食べる
- 42.しなびた大根の救済策
- 43.井草八幡宮参拝& 帰って有機そば
- 44.欲望を信じる
- 45.初めての「がんに効く玄米ご飯の炊き方」体験記
- 46.ソバカキって何? 深大寺で初めてそばがきを食す!〜前編〜
- 47.ソバカキって何? 深大寺で初めてそばがきを食す!〜後編〜
- 48.初めての「そばがき手作り」体験記
- 49.初めての「生しぼりにんじんジュース」体験記〜前編〜
- 50.初めての「生しぼりにんじんジュース」体験記〜後編〜
- 51.初めての「食養第一期食そばパン作り」体験記
- 52.スナック菓子を前にして思うこと
- 53.マクロビオティックとウォーキング〜前編〜
- 54.マクロビオティックとウォーキング〜後編〜
- 55.忙しい人のためのチャーハンおにぎり弁当
- 56.マクロビオティックで自炊力アップ
- 57.除毒してジャスミンティーを入れる
- 58.三年番茶ブレンドで陰性を和らげる
- 59.初めての「銀座吉水でランチ」体験記
- 60.にんじんりんごジュースで知る新たな世界〜前編〜
- 61.にんじんりんごジュースで知る新たな世界〜後編〜
- 62.妹の作る栄養不良回復御膳
- 63.除去食ベースのマクロビオティック料理

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- 2.曖昧レシピで謎のスープ(失敗談)
- 3.実行が一番難しいこと(失敗談)
- 4.電子レンジ回避で玄米腐らせた(失敗談)
- 5.完全粉(全粒粉)でパン作り失敗談
- 6.笑うしかない極短全粒粉うどん(失敗談)
- 7.にんじんりんごジュース飲み過ぎて失敗〜前編〜
- 8.にんじんりんごジュース飲み過ぎて失敗〜後編〜
- 9.栄養失調〜いわゆる夏バテ〜第一話
- 10.栄養失調〜いわゆる夏バテ〜第二話
- 11.栄養失調〜いわゆる夏バテ〜第三話
- 12.栄養失調〜いわゆる夏バテ〜第四話
- 13.栄養失調〜いわゆる夏バテ〜第五話
- 14.栄養失調〜いわゆる夏バテ〜第六話
- 15.栄養失調〜いわゆる夏バテ〜最終話

- 1.砂糖がダメ? そんなの知らん (マクロビオティック開始〜三ヶ月目)
- 2.白砂糖が甘い、カレーがくどい (四、五ヶ月目)
- 3.本物の醤油の力と7号食 (六ヶ月目)
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- 9.根性の流動食と噛めない苦しみ (一年目)
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- 12.暴走、失敗、抜歯、暴走 (一年三ヶ月目)
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- 15.月経周期28日と混乱! (一年六ヶ月目)
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