アニメ「日本の昔ばなし」の「六百歳の女」の謎~原本を調べてドツボにはまる

昨年末から毎週土曜日に楽しみに見るようになった「ふるさと再生 日本の昔ばなし」。

収録されている話はけっこうオチのないものが多く、「え、そこで終わるんかい!!」と突っ込みを入れるのが通例となっています。

そして、昨日(2014年3月1日)放映された「六百歳の女」という話は、今までで一番オチがありませんでした

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武士の念がホラ貝に?

六百歳の女
(画像出典:2014年3月1日放映 BSジャパン「ふるさと再生 日本の昔ばなし」)
六百歳の女
(画像出典:2014年3月1日放映 BSジャパン「ふるさと再生 日本の昔ばなし」)

↑平氏との戦いにより瀕死となった源氏の武士が、「源氏の世が来るのをこの目で見るまでは死ねない」と思いながら息絶えたときに、側にあったホラ貝にその念がこもります。

六百歳の女
(画像出典:2014年3月1日放映 BSジャパン「ふるさと再生 日本の昔ばなし」)

↑後日、病気の母のために食べ物を探しに来た子どもが、そのホラ貝を拾って調理し母に食べさせたところ、母は不老不死の身になってしまいます。

六百歳の女
(画像出典:2014年3月1日放映 BSジャパン「ふるさと再生 日本の昔ばなし」)

↑子どもや孫を看取ることを繰り返しながら六百年経ったある日、濃い霧で道に迷って訪ねて来た僧侶を家に泊め、取り憑いた武士の霊を鎮めるためにホラ貝をその僧侶に託します。

六百歳の女
(画像出典:2014年3月1日放映 BSジャパン「ふるさと再生 日本の昔ばなし」)

↑その後、旅に出る女。最後にナレーションが入ります。「年を取らず生き続ける女の旅。それは果てしのないさすらいの旅でした」

……って、そこで終わりかい!! その女の人はその後、どうなっちゃうわけ? 武士の霊が鎮まれば不老不死の呪いも解けるのではないの?

と、頭の中が疑問でいっぱいに。

そこで、この話の元となった物語を調べてみることにしました。そこでは、どういう結末が描かれているのか……。

原本発見

すると、この話の原本を発見。「木村蒹葭堂」(きむらけんかどう)が書いた「蒹葭堂雑録」(けんかどうざつろく)という全五巻からなる江戸末期の随筆の第四巻にある話「筑前国長命婦螺由緒ちくぜんのくにちょうめいおんなほらのゆいしょ」でした。

アニメの設定は一部創作

原本を読むと、アニメの設定は一部創作だということがわかりました。

原本によると、主人公は「不老不死の女」ではなく「商人の男」です。

筑前国(北九州市)から商売で奥州津軽(青森県)に来た「商人の男」が道に迷って山奥の民家に泊めてもらったのですが、その家の奥さんが「不老不死の女」だったのです。

以下、アニメ版で扱われていた部分が原本版ではどのように書かれていたか、現代語で掲載します。

『女が語るには、女も商人の男と同じく元々は筑前国出身で、海女(あま)をしており、そのときちょうど安徳天皇が都落ちして近くの山に仮の皇居を構えておられたので、時々海のものを御所に差し上げていた。

あるとき病気になって、死にそうになったが、子どもたちが磯で拾ってきてくれたホラ貝を煮て食べたらたちまち元気になって、以来、年を取らなくなった。

夫、子、孫、ひ孫、玄孫にも先立たれ、自分だけ死なないので最初は辛く、海や川に身を沈めようとしたことも何度もあったが、唐土(もろこし)の仙人も自分のように長生きするというから、生きられるまで生きてみようと思い直した。

そうしてとても長い時間が経って、全国の神社や寺を巡りたくなり筑前国を出ることにしたが、そのときにホラ貝を地元の神社の神職に渡し、祠に納めて形見としてくれるよう頼んできた。

それももうかなり昔の話になるが、もしそこへ行くことがあればこの話を子孫に伝えてほしい。目印は、祠の近くに生えている大きな松の木だ。

……その話を聞いた商人は、五ヶ月後に筑前国へ行き、確かに松の木の近くの祠にホラ貝が納められているのを知った。そして、ホラ貝を受け継ぐ家の男に女の話を伝えた。』

(参考文献:Cecilia S Seigle著「江戸時代の噂話第二部:農村あるいは地方の女性」、木村蒹葭堂著「蒹葭堂雑録」第四巻「筑前国長命婦螺由緒」)

……というわけで、「ホラ貝に武士の霊が取り憑いている」というのはアニメオリジナルの設定で、だから、最後にちょっと未消化感が残ったのだとわかりました。

原本を読んでみると、「安徳天皇に海の物を差し上げていた」という女の善行により、褒美として、ホラ貝に不老不死の力が宿ったのではないかと思えました。

不老不死は良い? 悪い?

また、アニメでは、「限りある命だからこそ良いのだ」と不老不死をマイナスなこととして扱っていましたが、原本では、最初こそ悲観していたものの最後には「生きられるだけ生きてみよう」と女が前向きになっており、そのおかげで話全体が明るいトーンになっていると感じました。

そもそも女は、病気で死にかけていたところをホラ貝によって命拾いし、ついでに不老不死になってしまったわけですが、もし私が女の立場で「病が治らずそのまま息絶える」のと「ホラ貝を食べて不老不死になる」のとどちらかを選べるなら不老不死を選びます。

その後に来る別れの辛さなどはさておき、とりあえず生き延びたいです。生きられたら嬉しいです。

不老不死は、死なずに生き延びられたことに焦点を当てれば「良いこと」のはずです。

ですから、不老不死を「仙人」のようなものととらえて肯定的に受け入れた原本の流れの方が、私としてはしっくりきました。

アニメ版でも、もうちょっと不老不死を前向きに描いてくれたら良かったのになと思ったりします。

最後のナレーションを、「女は、こうなったら生きられるだけ生きてみようと心を強く持ち直し、旅立ちました。今もまだ生きていて、日本のどこかで暮らしているかもしれません」とするとか。

現在も行われている「ホラ貝祭り」

ちなみに、なんとなんと驚くことに、不老不死の女がホラ貝を預けた北九州市の貴船神社で、今でも「ホラ貝祭り」が行われているのです!

ご神体のホラ貝に御神酒を注ぎ、それを飲んで不老長寿を祈願するのだそうです。

まさかこの昔話が現代にまで生きているとは……すごすぎる。

何気なくアニメを見て、「なんというオチのない話だ」と思って気軽に調べ始めてみたら、その後何時間も延々と調べ続けるはめになるというえらいことになりましたが、色々と勉強になりました。古い文献にも当たったりして、なんだか大学生に戻ったような気分でした。

それにしても、アニメ制作陣は、よくこんな話を発掘してくるものだなと思います。これからも、どんな昔話に出会えるか楽しみです!

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