桜沢如一氏と久司道夫氏、教えの違いは?~後編

実践内容や目指す地点は基本的に同じですが、「マクロビオティック食事法の指示内容」や「最終的に目指す食事内容」、「油への態度」に違いがあります。

指示内容の違い

桜沢如一氏と久司道夫氏、教えの違いは?~前編で、桜沢氏と久司氏ではマクロビオティックの目的や開始方法に違いがあることを説明しました。後編で、その続きを解説していきます。

桜沢氏と久司氏の違いの三つ目は、マクロビオティックの食事法の指示内容にあります。

一言で言うと、桜沢氏は大胆久司氏は緻密です。

桜沢如一氏
主食が食事の半分以上で、あとは野菜や海藻のおかずを自由に。(曖昧、おおざっぱな指示で自由度高い)
主食が食事の半分以上で、あとは野菜や海藻のおかずを自由に。(曖昧、おおざっぱな指示自由度高い)

たとえば、桜沢氏のマクロビオティックでは、主食が食事全体の半分以上ということは言われますが、それ以外の副食については「季節の野菜や海藻を、伝統製法で作った醤油や味噌で味つけしたおかず」くらいの指示にとどまります。

細かな指示がないので実践者の理解度によっては間違いも生じてきやすいでしょうが、自由度が高くて自分で探究できる面白さがあります。

対して久司氏は、「マクロビオティック基本食」というきわめて具体的な食事内容の指示を出しておられます。

久司道夫氏
マクロビオティック基本食! 「主食」「野菜」「豆類・海藻」「汁物」それぞれのパーセンテージを守ってね。(細かな指示だがわかりやすく間違いにくい)
マクロビオティック基本食! 「主食」「野菜」「豆類・海藻」「汁物」それぞれのパーセンテージを守ってね。(細かな指示だがわかりやすく間違いにくい)

「完全穀物50~60%、野菜20~25%、豆類・海藻5~10%、汁物5%」が毎日の食事の基本とされます。

桜沢氏の場合、豆類と汁物は「必ず摂れ」と指定されているわけではなく、たとえば前編で説明した「第一期食」のメニューには「炒り玄米とタクワン」「野菜入りソバパン」など豆類も汁物も入っていないものがあります。

けれど久司氏は標準のパターンに必ず豆類と汁物を組み込んでいるわけです。

指示が詳細な分、自由さが多くない感じがするかもしれませんが、誰にでもわかりやすく栄養学的にも間違いの少ないマクロビオティックが実践できます。

最終的な食事内容の違い

四つ目は、最終的に目指す食事内容の違いです。

桜沢氏は、導入は厳しいですが、最後には「何でもあり」になります。

桜沢如一氏
最終的には、肉や魚やアルコールをたまにしこたま摂ったってびくともしないような健康な体を作るのが最終目標!
最終的には、肉や魚やアルコールをたまにしこたま摂ったってびくともしないような健康な体を作るのが最終目標!

『のめるけれど、飲まない。食えるけれど食う必要を認めないから食わないが、食わねばならない時がもしあったら、それを飲み、かつ食ってもビクともしない、というような体格を作るのが食養です。』(*9)

つまりマクロビオティックで体をととのえきれば、たまに肉や魚やアルコールをしこたま摂ったってびくともしないということなのです。そんな「鉄の体」を目指すのが桜沢氏です。

久司氏は、移行方法にはゆるやかさがありますが、ゆるやかにゆるやかに、しかし最後まである一定の基準の中で食事をすることを求めているように感じます。

久司道夫氏
肉や魚は、最後まで基本的に控える心がけが良い。
肉や魚は、最後まで基本的に控える心がけが良い。

たとえば、肉や卵、魚介類は『月に数回程度のオプションとして正しい食事への移行期にしばしば』(*10)という指示があります。『各自のコンディション、各自のニーズなどに応じて調整してよい』とは書かれていますが、根底に「禁止」の空気が漂っています。

それはひとえに、実践者の判断力の狂いによって間違いが発生するのをとどめようとしているからであり、久司氏の親切心から出る指示なのだと思います。

すべてを実践者の判断に任せて「何でも食べて良し」の境地を示す桜沢氏と、実践者の失敗を未然に防ごうと「一定の基準」を示す久司氏

どちらもそれぞれに正しいマクロビオティックの姿であると思います。

油への態度

調理方法で最も違うと感じるのは油(植物油)への態度です。

動物性油脂はもちろん桜沢氏も久司氏も「避ける」方向なのですが、植物油に関しては桜沢氏は歓迎派久司氏は遠慮派のように見受けられます。

桜沢如一氏
植物油であれば食物を陽性化させるのに使える(炒め物、揚げ物)。
植物油であれば食物を陽性化させるのに使える(炒め物、揚げ物)。

たとえば、桜沢氏は前述した「第一期食」にも出てくるように、味噌汁の具を油炒めしたりします。

生の油は陰性ですが、火を通せば熱くなって陽性になるという考えから、味噌汁の野菜をあらかじめ油炒めすることでより陽性の強いものにしようとする意図を感じます。

胃下垂の食養療法で、副食として「野菜の天ぷら」が挙げられていたりもします。

他、桜沢氏の奥さんである里真さんが書かれた『リマクッキング』にも揚げ物がよく出てきます。

久司道夫氏
良質な植物油でもあまり摂らない方が良い。
良質な植物油でもあまり摂らない方が良い。

対して久司氏は、おそらく油は熱を通しても体内では陰性であるととらえていらっしゃるのでしょう。

治病のための食事法において、『別途の指示がなければ、油の使用は、良質な植物油も含めて、1~2ヶ月間は、最小限に抑える。その後は、できれば鍋に拭く少量のゴマ油を一週間に1~2回使う』(*11)とあります。油は動物性であれ植物性であれ、あまり体には良くないと考えてらっしゃるようです。

結局、植物油は良いの? 良くないの?

この、油に関しての見解の違いには当初戸惑いました。私は桜沢氏の本から学び始めたため、味噌汁の具も油炒めするようになっていましたし、油を、ましてごま油ともなればなおさら、悪者とは思ってはいませんでした。

しかしその後久司氏の本を読み、油に対してそれまでのようにおおらかな気持ちではいられなくなりました。

けれど、体調をよく観察した結果、確かに揚げ物のような油たっぷりのものは胃もたれの原因になったりしましたが、具を油炒めした味噌汁(ゴボウ汁)は通常の味噌汁とはまた違うコクがあり、体が元気になる感じもあったので、久司氏がおっしゃるほどには油を忌避することもないかなと個人的に結論を出しました。

桜沢氏と久司氏の教え、どちらを取り入れるか?

さて、ここまで、桜沢氏と久司氏、それぞれの指導方法の違いを見てきました。

たどり着くゴールは同じでも、過程は両氏で微妙に異なり、どちらの教えをどのように取り入れるかで私たち実践者のマクロビオティック生活も違うものになってくるでしょう。

私個人は、桜沢氏の影響を強く受けています。特に、「マクロビオティックを続ければ最後は何でも食べられる頑丈な体になる」というおおらかな考え方は、マクロビオティックを始めたばかりの頃に「あれもダメ、これもダメ、でも食べたい、でもダメだ」とガチガチになってしまいがちだった心をリラックスさせてくれました。

私の基本食であるおにぎり・ごぼう汁定食も、桜沢氏の理論をヒントに自分で見つけました。

桜沢氏の理論は、自分独自にマクロビオティックをどんどん探究したい人に向いていると思います。

久司氏の理論も活用させていただいています。久司氏の教えの明確さ(特にマクロビオティック基本食の考え方)は、メニューを考える際の大きな助けになります。

桜沢氏の理論をベースに、久司氏の方法論を加え、現在、かなり自由な感じに、自分なりのマクロビオティックを実践できていると感じています。両氏には感謝しきりです。

さて、あなたは誰の教えをベースに、どんなマクロビオティックを展開させますか?

次項:理論から? 実践から?

次項マクロビオティックの理論と実践、どちらから入るのが良い?です。

(出典・引用:*10久司道夫著『マクロビオティックが幸福をつくる』p.113
*9桜沢如一著『食養人生読本』p.99
*11久司道夫著『THEマクロビオティック』p.460